serial experiments lain 解釈・解説(前半)

 98年に放送されたアニメ「serial experiments lain」。難解なアニメと噂される本作を、なるべく網羅的に解説していきたいと思う。

 

 前提として、私は本作について、哲学・心理学的分野に関するテーマを基礎から深く考えさせられるものであったり、情報学として知識を広げていくものであったりと、そういった学術的な観点は基本的に見出していない。言わば衒学的なアニメであり、奇抜でキャッチーな論理を楽しむといった要素の方が重視されているように思える。

そんなlainだが、感動と温かさを秘めた名作だと、私は心から信じているので、その魅力を少しでも感じ取って頂けるのなら幸いだ。

 

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 「ワイヤード」という、ネット的空間が発達した社会。一流企業「橘総研」に勤務する天才プログラマー・英利政美。少々肥大した自意識とプライドを持ち合わせていた彼は、ある日、ワイヤード上を統べる方法論を発見する。すべての始まり。

 

serial experiments lainのスタート地点まで

 

・英利政美の思想〜肉体を捨て、人類の進化へ〜
 さて、まず英利政美はとある思想を絶対視していることを確認しておきたい。


「自分達を動かしている力の事も知らず、ただ欲望を満たすためだけに、肉体を維持している。つまらないとは思わないか?」(05話)
「肉体も機関に過ぎない。その物理的な制約が〜」(12話)


彼は作中で幾度となく謳われる肉体不要論を絶対のモノとして捉えている。
肉体や脳の活動は物理的な現象に過ぎず、人間を人間たらしめる要素は思想や記憶こそが上位である。肉体はただ自身の存在を確認するだけの空虚な入れ物に過ぎず不要なものだ、と。これはlain作中でも執拗なまでに強調される論であり、かつキャッチーな論という印象がある。


更に彼は、肉体を捨てることで人は進化できると考えている。


「人の進化を留めているのだとしたら、それは人という種の終わりを、いもしない神によって決定づけられている様なものだ。」(12話)
「人という種が連綿と繋がり続け、情報をその中に蓄積してきたもの。それは共有されねば何の意味も持たないただのデータでしかない。人は進化できるんだよ、自分の力で」(12話)


彼は、「肉体は不要」という論説に留まらず、「肉体が人の進化を留めている」と思考している。人と人とが肉体で関わり合う旧来の社会は終止符を打った。肉体は制限であり、それを解き放ってこそ人類の未来があるのではないか。そんな思想が垣間見える。テンプレ・マッドサイエンティストのような尖った持論を展開する英利。神というよりは、厨二病のコスプレのような格好をして、これを言い放つのだから少々滑稽である。


・英利の思想・結論「ワイヤードはリアルワールドの上位階層であるべき」
 上記の英利理論から導き出される思想はひとつ、「ワイヤードはリアルワールドの上位階層である」ということ。ワイヤード上では、当然人々は肉体なき形で存在する。人と人との情報が絡み合うスペース。肉体という制限を超越した世界。ワイヤードこそが人類の未来を切り開くベースであり、リアルワールドはその下位階層でしかないと考えている。


・ワイヤード上における個人
 さて上記のような論を掲げる英利だが、改めて確認しておくべきことは、ワイヤードにおける「個人」である。肉体なきワイヤードにおいて個人とは情報の集積に過ぎない。個人を特定する要素は、個人の持つ記憶に依存されることとなる。例えば「私」という存在は、「これこれこういった経験を積み重ねた記録の集積によって完成したモノ」である。思想や記憶を、熱のない「記録」として扱い、個人を特定する世界。「記憶なんてただの記録」なのであり、そういった「私」は簡単に書き換えられてしまう世界なのである。また、


「感覚だって脳の刺激でどうにだって得られる。嫌な刺激なんか拒絶すればいい。楽しくて気持ちがいい事だけをすればいいじゃないか」(12話)


とあるように、個人が体感する刺激すらも情報であり、それを制御できる世界こそがワイヤードである。つまり記憶の書き換えや嫌な刺激の拒否といった「作られた体験」をも可能にするワイヤード。英利はそんなワイヤードこそが人類を進化させると信じたのである。

そして、そういったフィールドにおいて完成された「個」は本当に意味があるのだろうか。それがlainのひとつの主題でもある。この時点で結論は見える気がするが。


・英利の願望
 さてそんな過激な思想を抱く英利であるが、それに輪をかけて過激な願望を抱いている。そう、「ワイヤードの「神」の座に就くこと」である。リアルワールドで空席であった「神」というポジション。しかしワイヤード上ならばそのポジションが存在し得るのではないだろうか。

ワイヤードをリアルワールドの上位階層へと変化させ、人類を肉体から解放し、新たな段階へと進化させた、超越的世界の神になろうと彼は熱い想いを抱いたのである。
13話に登場する、会社に圧迫された彼は「やめてやる、僕の事を軽く見やがって」と、自意識の塊のような人間性を明らかにしていた。選民精神やプライドが「神」への欲望を掻き立てるひとつの要素にもなっているだろう。厨二臭いコスチュームで登場するのも頷ける。リアルワールドにいたら、人が離れていくタイプとしか思えないが…。(ところで、「神」への羨望・自意識・プライド。夜神月と似た臭いを感じる…。)


・活動を開始する英利
 さて、肉体は人類の進化を妨げる故に不要であると言い放ち、またワイヤードがリアルワールドの上位階層であるという論を掲げた英利。またワイヤードの神となった上で、ワイヤードをリアルワールドの上位階層へ仕立て、人類の進化を遂げさせる。そんな野望を密かに抱いた彼は、ある日、それを実現するための「抜け穴」を発見する。厄介な思想を抱くも無力だった者が、ある日突然能力に目覚める。そんな展開と同じモノを感じる(無論、彼は元々優秀だったのであるが)。さて彼は遂に、「神」になるべく腰を上げることとなる。


・英利が発見した抜け穴
 英利はワイヤードという空間を理想郷とするべく・「神」になるべく、3つの物に目を付ける。「プロトコル」と「シューマン共鳴」と「lain」である。これらを利用することで、英利は自身の野望を実現し得ると考えた。以下、英利が行った事を具体的に記載しつつ、上記の3ワードを掘り下げていく。


・英利の活動 2種類
 英利の活動は主に2種類に分けられる。まず、
1.ワイヤード上での神になるための活動

である。大層大胆な第一段階だが、英利はこれを可能とした。ワイヤードの神になるために必要なもの、それは「影響力」と「信者」である。自身の意のままにワイヤードに影響を及ぼす、それだけの力を手にした上で、信者を手に入れる。これが神へのプロセスと考えた。
では影響を及ぼすために何をしたか、そこで登場するのが第一の抜け穴「プロトコル」である。ここで注意しなくてはならないのは、lainにおける「プロトコル」は少々、いや大幅に情報学的な範疇を超越した、別種の意を含むワードとなっている点だ。
プロトコルとは本来、通信の取り決めであるが、小中氏のある種の遊び心的感覚であろうか、心理学的な意味(暗黙の内に共有され、神の様な働きをするもの)を含めたワードとなっているようだ(小中氏本人は、心理学用語としてのプロトコルlainシリーズの縦軸とも発言している)。この理論によってlainにおけるプロトコルは、やりたい放題の、「いやなんでそうなるんだよ…」と誰もがツッコミを入れたくなるような機能を持つこととなる。以上の点に留意して、英利の行動に目を通していきたい。
まず、


プロトコルを支配する事は、ワイヤードを実質的に、経済面で支配出来るという事だからね。それに対する妨害は執拗らしい。で、その始末をしているのが…」
「橘総研」(08話)


という会話の通り、橘総研はプロトコルへの介入を可能とする企業だ。橘総研の英利はそこに付け入り、七代目プロトコルに自身の情報を書き込むという至極大胆な行動に出るのである。


「そのプロトコルには、圧縮された情報が混入している」
「どんな情報かしら?」
「人の記憶。英利政美という男の思考、履歴、記録、情緒」(10話)


プロトコル7に圧縮された英利の情報、英利の残留思念。通信の取り決めの羅列に、個人情報を混入させるマッドな試み。正直なところ「アホ」というか、自意識の塊・英利らしい手だなと感じるのだが、これによって何が起こったのか。


「それがどういう事を意味しているのかしら?」
「ワイヤードのアノニマスな存在として永遠に生き続け、そこを情報によって支配し得る存在」(10話)
「普遍の存在であって影響を及ぼす事が出来た〜」(10話)


なんということだろうか、プロトコル7に自身の情報を書き込むことで、他人の意識の中に自身をインストールするかの如く自身を普遍の存在へと昇華。その上、影響力を与える事ができるようだ…。
少々釈然としない理論ではあるが、通信の取り決め「プロトコル」に「英利政美」という自己情報を介入した結果、暗黙のうちにプロトコルを消費しているユーザーは、無意識的にその情報を頭にインストールしていった。その結果普遍的存在になると共に、影響を及ぼすまでに至った、という論理構成と考えられる。小中氏のいう心理学的なプロトコル「暗黙の内に共有され、神の様な働きをするもの」とは、このことを指しているとも言えよう…。ちなみに、プロトコルに「変な」情報を加えることで人に影響を及ぼすという、奇怪に奇怪を重ねたような英利の方法は、下記の英利の活動2でも使用されることとなる。


さてはて、奇妙な印象ではあるものの、どうやらこれにより英利は「ワイヤードの神」としての「影響力」を持つ事に成功したようだ。しかしこれだけでは神と成り得ない。「ワイヤードの神」になるべく必要なもう一つの要素、それは「信者」だ。そこで彼が利用した存在こそ、作中で絶大なインパクトを与えたハッカー集団「ナイツ」である。ワイヤード上で様々な暗躍を働くナイツ。「ワイヤードを上位階層に」という部分で英利とナイツは同志であり、かつ「リアルワールドで空席の神の座が、ワイヤードでは存在し得る」という論はワイヤード優位性にも繋がる。またそういった尖鋭な遊びをナイツは好む節があり、ナイツとっては美味しい話である。彼等がそこに乗ずるのは当然であり、こうして 英利は「影響力」と「信者」を獲得したワイヤード上での神となったのである。しかし英利とナイツ…。実に酷い神と、酷い信者…。地獄絵図のような関係だ…。


 続く英利の活動は、
2.ワイヤードをリアルワールドの上位階層にする活動
である。「ワイヤードこそが人類の未来を切り開くベースであり、リアルワールドの上位階層である」という理論を掲げる英利。彼は一体どのようにして、ワイヤードをリアルワールドの上位階層にしようと試みたのか。以下、順を追って説明していく。

 

まず、

 

「地球の人口はやがて脳内のニューロンと同じ数に達する。ダグラス・ラシュコフは、地球上の人間同士がネットワークで相互接続する事により、地球自身の意識をも覚醒させ得ると主張している。」(09話)

 

という謎の論がこの根底にある。つまるところ、ニューロンが集合した結果脳が働きを成すように、人々もネットワークによって相互接続すれば、地球の意識が覚醒されるのではというものなのだろう。これに関して英利は、

 

「橘総研の主任研究員だった英利政美は、地球を覆うニューラルネットワーク仮説を更に進化させ、地球上の人間は凡て、デヴァイスすらも必要なく、ワイヤレス・ネットワーク上に無意識下に配置されるという仮説を発表した。」(09話)

 

とある。つまり英利は、ダグラス・ラシュコフの仮説「地球上の人間同士がネットワークで相互接続した結果、地球の意識が覚醒する」という見解に対して、「地球の意識が覚醒した結果、人々はデヴァイスを使用せずにワイヤードへ接続されるようになるのではないか」という予測をしたのである。もし本当に、人々が無意識のうちにネットワークに接続されるのだとしたら、それはワイヤードがリアルワールドへ侵入することへと繋がる。ワイヤードでの行動がそのままリアルワールドに直結される世界。ワイヤードにレイプされるリアルワールド。実現したとすれば、ワイヤードが優位となった世界を築くことができる。

そう考えた英利は、この仮説を基に、実際に行動に移すこととなる。さて上記の仮説は、第一に人々がネットワーク上で相互接続しなければならない。しかし、それはつまるところ「互いが互いと」、それも「地球上の人間同士が」という条件を突破しなければならないことを意味している。困難な話だ。これを達成するために、英利は、ワイヤード上で存在するお伽話的な存在、そう2つめの抜け穴、「lain」へと手を付ける。

 

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◎「lain」とは

 「君は元々ワイヤードの中で生まれた存在。ワイヤードの伝説。ワイヤードのお伽話」(10話)


lainとは周知の通り、少女の形をした、ワイヤード上に遍在する人々の意識・印象に形を与えたものだ。噛み砕いて記載していこう。


「君は僕と同じさ。ワイヤードに遍在している」(08話)
「ワイヤードに遍在してきた君に〜」(12話)

「どんなところにいても、誰のところにいても君は側にいたんだ」(08話)


とあるように、lainは、ワイヤードのあらゆる場所・あらゆる人の中に遍在する存在だ。しかしlainは全員が常時のっぺりとした無表情を浮かべているという訳ではない。我々が知る通り、実に多彩な感情と表現を持っている。人々や場所の中に遍在する存在としてのlainが、どんな状況でどのような表情をするかといった法則性は見つけられないが、状況や個人の性格といった場所・人の空気感に応じて、顔の色を変化させていくと予測できるかもしれない。個人の主観によって、lainの表情も変化する。lainとは個人の性格であり、雰囲気であり、兎に角様々な場所に様々な様相で存在していた訳だ。

つまりlainという存在はワイヤード上での人々のあらゆる無意識が、形を持ったものである。しかしlainはお伽噺。どこから派出したのかも不明な、ただの伝説。例えば現代で言うところの「口裂け女」の様にその伝説だけが一人歩きし、lainはワイヤード上の伝説となっていたのである。確かな存在であったにも関わらず、誰も彼女の姿には気付かない。万人の無意識。つまりlainとは「集合的無意識」だった訳である。

 

※この「lain」の生み出し親が誰かという点は、小中千昭氏すらも設定していないようだ。算法騎士団か英利政美自身と発言している。後者の場合は、上記の「目を付けた」という部分は、「作り出した」という意に変わる。

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 そして英利はこのように考える。ワイヤードとリアルワールドの境界を崩すワイヤレス・ネットワークを作り上げるには、大多数の人間同士(ニューロンの数程度)がネットワークで相互接続する事が条件となる訳だが、lainという無意識下で共有される存在を意識層へと転移し人々を接続しなおせば、相互接続が成されるのではないか。

lainという存在は遍在しつつも、彼女達は互いにリンクし合う、1つの存在に過ぎない。あるlainが見たものは、他のlainも共有することができる。lain達は繋がっているのである。lainで人々を接続すれば、無意識的にとも、個人の情報はlainによって他に共有される(作中でありすが悲しんだように)。こうしてlainが相互接続という役割を果たしつづければ、近い未来に地球を覚醒させる人数分だけの「繋がり数」に達したときに、人はワイヤレス・ネットワークに到達する。そういったことを英利は考えたのだ。

 

そこで英利は、lainをあるかないかも分からない伝説の存在にしておくのではなく、人々の無意識をはっきりとlainという形に転移させようという目論みを抱く。lainによって、ワイヤードの人間たちを接続するために。

 

そこで彼が利用した3つめの抜け穴は「シューマン共鳴」である。

「地球には、地球自らが持つ固有の電磁波が存在する。電離層と地表の間で、FLF帯に8ヘルツの周波数で常に共鳴が起こっている。これをシューマン共鳴と呼ぶ。言わば地球の脳波は、人類にどれだけの影響力を及ぼしているのか、未だ判ってはいない」(09話)

 

さすが本作。「シューマン共鳴」という「如何にも」なワードを展開してくる。なにやら、地球の持つ2つの電磁波が共鳴することをシューマン共鳴と呼ぶらしいが、問題なのは、シューマン共鳴によってどんな作用が期待できるかだ。

 

「地球の固有振動にシンクロさせたコードをプロトコル7に組み込むことで、集合的無意識を意識へと転移させるプログラム」(12話)

「更に彼は、第7世代目のワイヤード・プロトコルシューマン共鳴ファクターを独断により暗号化し書き加えていた」(09話)

 

なるほど、「地球の固有振動にシンクロさせたコード」というのはシューマン共鳴ファクターのことであろう。つまりシューマン共鳴のコードによって、人の集合的無意識は意識へと転移されるようになるらしい。無論、先述の通り「集合的無意識が意識へと転移」することによって意識化される存在こそ、lainのことである。シューマン共鳴コードは、人々の中でlainを生み出すために作動する装置であるようだ。そして、英利は自身の情報だけでなく、シューマン共鳴ファクターも同時にプロトコルに混入させていたのである。前述の謎理論の通り、プロトコルで無意識的に共有されたシューマン共鳴によって、ワイヤードの利用者は集合的無意識が意識へと変化。lainはお伽噺としての存在ではなく、次第にワイヤードでの認知を拡大していくこととなる。(本作の中盤付近までは認知度の低かったlainは次第にその名前をワイヤードで知らしめていく。)
こうしてlainは、ワイヤードとリアルワールドを崩すための「プログラム」としての役割を担うこととなったのである。

 

・英利の活動 まとめ
 英利の活動をまとめると次のようになる。彼の活動は2つ、「神になるための活動」「ワイヤードをリアルワールドの上位階層にするための活動」に分けられる。前者は、プロトコル7に自身の情報を混入させること・ナイツを信者とすることで解決。後者はプロトコル7にシューマン共鳴ファクターを混入させ、人々の集合的無意識を意識へと転移。lainによって人は接続されるようになり、いずれワイヤードとリアルワールドの境界は崩れ去ることとなるのであろう。

 

・玲音〜英利の実験〜
 そんな英利は、暇を持て余した神々の遊びとでも言わんばかりにとある実験を試みる。ワイヤードに遍在するlainに自我と肉体を与えてみよう、という至極挑戦的な実験だ。予測に過ぎないが、「ワイヤード上で人の記憶を操作できる存在lainが自我を持ったしたらどのような行為を起こすだろうか」という観測欲があったのではないだろうか。また、「全てのlainの意識を共有するlainの肉体(玲音)ならば、いち早くワイヤードとリアルワールドの境界を破壊できるのではないか」「彼女の覚醒を見守ることが、最も手っ取り早い「進化の確認」ではないか」という意図もあったように思われる。
英利はlain達に自我を与える。自我を与えられたlainはそれぞれに好きな行動を起こす。情に熱い行動を取ったり、ありすの部屋に訪れたような性悪な行動を起こしたりと、様々なlainが自主的な行動を起こせるようになった。更に1つのlainに肉体まで与えた。その肉体に虚偽の記憶を入れ、虚偽の家族を与え、人間としてリアルワールドに解き放ったのである。彼女の名前こそ、岩倉玲音。しかし、lainは遍在せど常に1人。当然肉体を与えられたlain、いや玲音は、全てのlainの見たもの・感じたものも無意識的に共有する。故に玲音はリアルワールドにいれど、幻覚を目にすることになるのである。

 

  こうして「実験」が開始されることとなる。(もっとも「lain」をシューマン共鳴で意識へと転移させた時点からをも含めて実験とも言えるが)

 

 

  さて、上記の前提を経て、いよいよストーリーが歩を進めることとなる訳だが、その前に2者ほど頭に入れておきたい存在があるので、そちらについても言及しておく。「橘総研」と「ナイツ」である。

 

・橘総研
 作中の世界では言わずと知れた一流企業である。NAVIを中心としたテクノロジー系統の企業だが、裏では「ワイヤード上位論の達成」を密かに掲げている。英利は橘総研の主任研究員だっただけに、彼の思想は多少なりとも本社の影響を受けていたのかもしれない。
橘総研は、英利がプロトコルを書き換えていたことを知り、彼を解雇するに至るが、恐らく表向きな責任問題的な観点からの解雇であり、彼の行為の根本を否定した解雇ではない。結果的にlainの実験を橘総研は支援している。玲音の様子を見守る為に康夫・美穂を親として配置。また黒沢は玲音の覚醒を促すような行動を取っており、社員は少なからずの労力をそこに費やしている。

 

「デバイス無しでワイヤードとリアルワールドを繋いでどうするつもりなんだ」
黒沢「素敵なことが起こるんだ。楽しみじゃないか」(12話)

 

というセリフからも見えるように、橘総研は「ワイヤードとリアルワールドの境界の崩壊」を隠れた目的としている。プロトコルにも携わっており、つまるところ「ワイヤード」という世界の優位性を信じている企業なのである。しかし、10話でナイツが排除されたのち「お祈りするひとがいなくなっちゃったよ」と発言されていることから、橘総研のメンバー達はナイツのように英利を「神」として信仰している訳ではないことが予測される。彼等が重視しているのはあくまでも境界の排除である。

 

・ナイツ
 橘総研がワイヤードとリアルワールドの垣根を取り除くことに重点が注がれている一方、ナイツはどちらかといえば「ワイヤードの神を守ること」に重点が置かれている。無論、ナイツもワイヤードとリアルワールドの境界を破壊しようと先陣を切って駆ける算法騎士団という色も強い訳だが、

 

「ナイツは、たった一つだけしかない真実を、事実とする為だけに闘う行使者なんだ」(09話)
「たった一つの真実、神様」(09話)

 

とあることから、その行為の根底にあるのは「神を神とする」意識である。この部分がナイツの表面立った特徴であろう。

メンバーはワイヤードを先駆する凄腕のハッカー達である。しかしながら「面白ければなんでもする」とまで言われるほど過激かつ極端なメンバー達であり、その暗躍はワイヤードでの噂として拡散されているのである。

 

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 さてこうした背景を経て、serial experiments lainの物語が動き出すのである(後半へ続く)。

 

 

 

ひとこと

とある方のlain考察ブログを読み、「自分とはかなり解釈が異なるな」と思いつつも感銘を受けたので、同様の流れで書いてみることにしました。後半もあるのでお待ちを…。

@tamaki_chika